八朔

うずたかく資料本を積み上げていると、なんだかとても、勉強しているひと、という雰囲気を身にまとっている。

いや、資料は、どれもちゃんと読み切っていない。いまいったいどのくらいあるだろう?

数えるのが嫌になりそうなくらい、ということはわかっているので、あえて数えずに「いっぱい」と言っている。購入したもの、図書館から制限いっぱいまで借りてきたもの、判型も厚みもまちまちの本のタワーが、左にひとつ、右にふたつ、できている。

頼むから読み終えるまで地震よ来てくれるな、という感じの。

少なくともあと十日。返却日までは揺れてくれるな。

そうこうしているうちに、先日注文してきたお品が仕上がったと、連絡をいただいた。

あの、素敵なパンのお話を聞かせてくださったお店。

もうほんとうに、すっごく素敵にできたの!!と、興奮気味にいただくお電話に嬉しくなる。

目をつけていたパン屋の焼き上がり時間を確認して、引き取り時間を指定した。

仕上がりを見て、涙が出た。

あまりに素敵で。

うわあ……、と言ったきり、言葉がつながらなかった。

作ってくださった職人さんがいかに素晴らしい腕をお持ちか伺うと、さらに、涙目に。

御年八十代の名工が手掛けてくださったそうだ。

なんというのだろう、たましいがこもった仕事、というのは、本当にすごい。

持つ私も気持ちがいっそうひきしまる。

恥じない仕事をしなければ。

ふさわしい自分になろう。

すぐには難しくても、一歩ずつでも。

奇しくも、八朔。

家康公が江戸城入りした日(まあ、本来は、旧暦だけれども)。

ご一新までは、家康公の鎧を飾って祝った重要な日。

そんな日に、素晴らしいおくりものを、受け取った気分。

手土産に持って行ったパン、とても喜んでくださり、その日のうちに食べた感想をお電話してくださった。

人とのかかかわりで、くるしむこともあるけれども、こんなふうに、ぬくもることもある。

ろうそく一本ほどでも、ひかりを、届けられるように。

一層、精進。

一生、精進。

はなうたとくちぶえ

冬森灯

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