きれいなの

「きれいなの。本当に、きれいなのよ」

目を輝かせてお話してくださる様子がうれしくて、あちこちを探してまわった。


赤しそのジュースの話だった。

手作りの赤しそジュースを御馳走してくださったのは、お世話になっているはんこ屋さん。手で彫ってくださる、とても丁寧なお仕事が評判のよいお店。頼んでいたお仕事用はんこを引き取りに訪れた時のことだった。すこし離れた町にあるのだけど、ご縁のあるお店で、私にはなんだか特別な場所なのである。

暑い中来てくれたのだから、と、白いボーンチャイナのカップに、うつくしい赤紫色の飲み物を、ごちそうしてくださった。それが、くだんの、赤しそのジュース。手作りらしい。

大きな鍋に赤しそを入れて、煮出して、と作り方を教えてくださる。煮ているときには、ちっともきれいじゃないの、と楽しそうに微笑む。

「それがね、クエン酸をいれると、ぱっと、目がさめたみたいに、きれいな色に変わるの」

そして何度も、とてもきれい、と繰り返した。

もう赤しそはあまり出回っていない時期だったのだけど、その色をどうしても見てみたいと思った。


あちこち捜しまわって、地物の農産物を扱う市場で、きっともう今年の最後だろうという、赤しそにようやく出会えた。

教わった通り、大きな鍋いっぱいに赤しそをいれて、煮出す。赤茶けた渋めの色の液体が、ゆらゆらと鍋に満ちる。教わったように、一度濾して、葉を取り出し、熱いのをがまんして絞る。もういちど鍋に戻して、お砂糖をとかしこむ。

そして、クエン酸。

クエン酸自体は我が家にはなかったので、中身は同じだろうと、レモン汁を、加えてみると。

ぱっと鮮やかな、うつくしい赤紫色が、現れた。目がさめたみたいに、と言ってらしたように、迷いのはれたようなすっきりしたお色。うつくしくて、しばし、ガラスの器に入れて眺めている。

夏がくるたび、きっと、思い出す色になりそうだ。

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