サンタクロースが来た

「あのね、クリスマスプレゼント、贈ったから」
朝、そんなメールで、目が覚めた。

年に一、二度メールするかどうか、というゆるやかなつながりの友人から。(そんな気さくで素敵なお友達が私にはとても多い。なんなら、数年~数十年のブランクだってざらにある)

突然贈ってくれたのは「いちご」。
クリスマス。そしていちご。
それは、私と彼女が出逢った時を、思い出させた。

*

街の中心部にあるレストランで、彼女は舌がたしかな常連客、私はその日のイベントの出演者として出逢った。
高校の同級生であるピアニストの曲にのせて、私が自作の詩を朗読する、クリスマスコンサートをやらせていただいたのだ。はるか遠く、昔のこと。

イベント前日打合せではじめて会った彼女は「差し入れする!」と言って、たしか好きなものを聞いてくれた。彼女の提案だったか、私がリクエストしたのか、記憶が定かではないけれど、彼女は私が好きだと言った「いちご」とともに、コンサートを聴きに来てくれた。

素敵な夜だった。
ピアノと詩を奏でるレストランでの一夜。
その店のアルバイトだった大学生の男の子は、私の詩の一節をラブレターに使わせてくれないかと終演後に涙目で声をかけてくれた。
バーテンダーの青年は、メリークリスマスと気障に言い添えて、私たちをイメージしたオリジナルのカクテルを、ご馳走してくれた。
渋い店主は、食事と一緒にギャラを出してくれ、辞退しようと恐縮する私たちに、創造性にきちんと対価を得ることの大切さを説いてくれた。

バイトくんが気に入ってくれた詩は、雪の降る街と片恋の詩で、店を出ると空からちらほら降ってきた雪に、私たちはサンタクロースを信じた。
やさしさとあたたかさに包まれた夜だった。

*

あれから時が経ち、店はもうない。
店主はどうされているのかわからない。
バーテンダー氏は自分の店を構えたが、いまそこには違う人が立っているという。
バイトくんはラブレターの告白相手に振られたが(力及ばずごめん)、その後ソムリエになり、地元では名が通っていると風の噂に聞いた。

ピアニストの友人は、演奏家としてもピアノ教師としても精力的に活動の幅を広げて、昨年は素晴らしいリサイタルを行い、今年は子ども向け大人向けそれぞれに、演奏の配信をはじめた。

食のスペシャリストになった常連の女の子は、舌を磨きあげつつ母になり、数年に一度、仕事で近くの街にやって来ると、一緒に食事に出かける。

今年はこんなだから、会えないね、と連絡しあったのは、半年ほど前だったろうか。


どんなに間が空いていても、まどろっこしい挨拶抜きに、気負わずささっと話せる相手。

つながる縁。

いっときまじわり、ほどけていく縁。

どちらも、そのときどきで、大切なひとたち。


一通のメールで目覚めるしあわせな朝。

ゆるくつながるご縁に、はるか昔のクリスマスの日を思い出した。

誰かが誰かを思う日って、なんて素敵だろうと思う。

サンタクロースは、いると信じてる。

意図しないところから届けられる思い。誰かと思いを重ねる日。その不思議ななにかを、私は、サンタクロースだと思う。


あのとき、バイトくんが気に入ってくれた詩は、♪戦場のメリークリスマス、にのせて語られた。

大粒のきらきらしたいちごを食べながら、ピアノを聴いている。


舌ににじむ強い甘みも、すうっと消える甘い香りも、思い出に似て、儚い。ずっと続くわけではないし、握りしめられるわけでもない。

けれど、それが感じられる時間を、精一杯、抱きしめていたい。


クリスマス、おめでとう。

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