「うつくしき一皿」 第6篇/完結
Bunkamuraドゥマゴ文学賞さまWebサイトにて連載させていただいた「うつくしき一皿」、最終話が公開となりました。
とうとう最後の一皿。
うれしくもさみしくもあり、でもやっぱり、いちばんは、感謝ばかりがあふれる想いです。
大好きなBunkamuraさんとのご縁のありがたさと、大好きな文化・芸術について考え続けられた時間のうれしさ、お仕事を通じて出逢えた方々、作品の数々に、心が震え続けるような時間でした。
最終話のテーマは「能」です。
作品づくりを通じて、人生ではじめて、お能に出逢いました。取材でいろいろと教えていただき、学ばせていただいて、お舞台へ足を運ぶほか、取材のつもりで仕舞、謡、面を掛けて舞台を歩くなどの能楽体験にも参加しました。
「面を掛けると視界が狭まる」とは見聞きしていたものの、実際に面を掛けた際のあまりの視界の狭さに、自分の体もどこへいってしまったのかわからなくなるほど。日頃いかに視覚に頼って生きているかがわかる、とても衝撃的な出来事でした。その分、感覚がぎゅっと研ぎ澄まされる。
勝手な感想ではありますが、小さな死のようだ、と思いました。おぼつかない肉体から意識を離して、もっと高みに、たましいがぐんと惹きつけられるような感覚とでも言えばよいのか。なにか普段とは全く次元の違う世界を、のぞかせてもらったような気がしました。
お舞台を摺り足で一周するだけだったのですが、ほんの数分のはずなのに、身体感覚では何十分もそうしていたかのような、過去も未来も現在もいっしょくたにそこにあるような、とても濃厚で濃密な不思議な時間でした。
……もっとも外から見ていると、立ち方歩き方もぎこちない、電池切れ直前のロボットのようだったのではと思いますが。
年間を通じて何度かお舞台に足を運び、すばらしい舞台をいくつも拝見いたしましたが、中でも「天鼓」という作品が好きでした。
能の登場人物はこの世のひとではないことも多く、天鼓少年も、鼓が好きなあまり、それを差し出せと言う帝の命に背いて、殺されてしまった亡霊なのです。前半はその父の物語で(これも感動的ですが長くなるので割愛します)、後シテで舞台に出てくる天鼓少年の亡霊は、「えっ、鼓、叩いていいの? うれしい、うれしい、楽しい!」とばかりに、恨みつらみも嘆きも超えて、ただひたすら「好き!」という気持ち、楽しさを、魅せてくれるのです。
私も、こんなふうに生きたい、と強く思いました。
さて。WEB連載はこちらで完結/終了となりますが、みなさまのおかげで、書籍化が決まりました。
読んでくださったみなさま、ありがとうございます。
『すきだらけのビストロ うつくしき一皿』と改題し、書下ろしを加えて、3月半ば頃、ポプラ社さんから発売となります。すてきな書影も、Bunkamuraさんのサイトでご覧いただけますので、よろしければぜひリンク先をご覧くださいね。
連載はお客さまたちの物語ですが、書籍版ではその裏側、ビストロつくしの物語を書き下ろしました。楽しんでいただけましたらうれしいです。
0コメント