芯
北の丸アンフィシアターに行ってきた。
その日は、雨が降ってきたのだけど、みんな笑顔で舞台をみつめていた。
きらきらとひかる雨は虹色にひかる球体に姿をかえ、その輝きの中で私たちは大きくかかる虹を見た。
祈るような。
きぼうを胸の中にうずめるような。
おおきな、虹だった。
過去のつらなりの中に今があって、この今を、ともに過ごすことができるうれしさがあって。
決して楽しいことばかりではなかったかつての時間をも、ぎゅっと抱きしめるような、そんな時間を過ごした。
あのときすきだったこと。
あのとき見ていたもの。
あのとき目指していたこと。
あのとき諦めたもの。
いますきなこと。
いま見ているもの。
いま目指していること。
高校一年生の掃除当番、あれは保健室の窓の下。
はじめて口をきいたあの子と私を結び付けてくれたあの音楽。
輝きを、失わないどころか、より鋭い光となって、目の前にあらわれた。
音楽を浴びるたび、いろんな思いがにじんで解けて、シャボン玉みたいにはじけて消えて。
暗闇につつまれた宇宙の中に放り出された私は、いつのまにか自分の芯が真ん中に戻されていたように感じた。
北の丸アンフィシアター。
その春の日、空におおきな虹が、かかった。
この虹を胸にうずめて、まいにちの中に戻る、私たちひとりひとり。
でもきっとこの虹が。胸の中のおおきな虹が。
今日を過ごす一歩と、その先に続く未来を、つくってくれる。
きっとまた、会おう。
>>>小沢健二さん
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