一年でいちばん忙しい季節

一年でいちばん忙しい季節、というと、年度がわりや、年越し年明けなども思い浮かぶけれど、食いしん坊にとっては、六月ではなかろうか。

らっきょうが出る。

山椒が出る。

梅が出る。

日頃の仕事の忙しさのほうを、まさか、手仕事するから休みますとも言えないので、忙しさは、普段の仕事量に上乗せされることになる。

どうにもままならないときは、手仕事を諦める。

諦めるのだけど、これくらいならできるかなとか、このぐらいはやりたいなという、甘い期待が自分のなかに生まれる。魔も差す。自分を過信する瞬間も生まれる。

それだけならばまだいい。

自分の都合で調整ができているから。

困るのは、特売だ。

こればかりは予想ができない。

よほどの内通者が身の回りにいなければ、梅の値段や山椒の値段が急降下するタイミングなど、わかりようもない。

見えなければ、まだ、知らなかったで通せる。

だが、そんな日に限って、折よくというか、折悪しくというか、スーパーの店頭を通りかかってしまうのが、食いしん坊の性なのだ。

そしてそういうときは、甘く囁く魔が、ナントカヤレルカモシレナイヨーと、裏声で話しかける。

かくして、自分でたてたはずのスケジュールを大きく狂わせ、半狂乱になりながら、手仕事に追われる。

終生きっと変わりようもない、言い換えれば学ばない、六月。

昨年は、手仕事をすべて諦め、かなぐり捨てて、作品に挑んだ(かすりもしなかったけど)。

今年は、昨年以上に力こぶをつくって作品づくりに情熱を注いでいるものの(こちらは楽しくて仕方がない)、さすがに二年間手仕事をサボるのも気がひけて、今年は両立を目論んだ。

きちんと、スケジュールをひいて、ここならばヨシと。

でも……そういう時にも、特売は容赦ない。

そして、ご多分に漏れず、特売で買ってしまう。

意志が弱い食いしん坊には、たいへん、忙しい季節なのである。

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